住環境における環境負荷の大幅削減を実現する調光ミラーデバイス
~機能性薄膜を用いたエレクトロクロミック型調光材料の実用化を目指す~
数ボルトの電圧印加によりその状態を反射⇔透明に変化することができる新デバイスです。太陽エネルギーに含まれる熱(赤外光)を効果的にコントロールできる点に大きな特長があります。
研究機関・所属 | 産業技術総合研究所 サステナブルマテリアル研究部門 |
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氏名・職名 | 田嶌一樹 研究員 |
研究テーマ名 | 高効率成膜プロセスを用いた機能性酸化物薄膜の開発および調光ミラーデバイスへの応用と優れた耐環境性能を有する構造開発 |
応用想定分野 | ビル・一般住宅等の窓材、移動用車両等の窓材、光学デバイス、エレクトロニクスデバイス |
技術概要
調光ミラーデバイスは電気的に反射(鏡)⇔透明の状態を可逆的に変化させることができます。そのため、複層ガラスあるいは遮熱フィルム用コーティング膜として利用すれば、太陽エネルギーをコントロールすることが可能になります。日本の住宅全戸に壁材や窓などに応用すれば、年間約1700万トン以上のCO2を削減でき、特に非常に大きな冷房負荷削減効果が期待できます。現在、調光ミラーデバイスの実用化に向け、材料の省使用化技術および代替材料技術開発、ならびに環境試験による性能把握を実施しており、より優れた耐環境性能(高耐久性)を付与することを目指しています。
- (A)
- (B)
- (C)
(A)調光ミラーの構造と電圧印加による切り替え、(B)調光ミラーフィルムの光学透過スペクトル、(C)電圧印加による外観変化
技術の特徴
- (1)低電圧(数ボルト)印加で状態の変化が可能
- 低電圧で反射⇔透明を可逆的に再現することが可能で、厚さ0.1mmのフレキシブルな調光ミラーフィルムも実現しております。
- (2)反射⇔透明のスイッチングにより太陽エネルギーの制御が可能
- ガラス窓から入る太陽エネルギーをスイッチングにより効果的に制御することができます。特に調光ミラーフィルムは窓ガラスに貼り付けるだけの簡便な導入が期待できます。
- (3)基材としてガラス、樹脂など様々な材料の選択が可能
- プラスチックなど柔軟な基材上にも作製することができ、フィルム状の調光ミラーが可能です。基材の選択により、光学素子や電気デバイスなど幅広い分野での応用可能性も考えられます。
- (4)固体薄膜材料で構成
- 機能性薄膜は固体材料であり、マグネトロンスパッタ装置を用いて室温プロセスで作製が可能です。
従来技術との比較
主に国内で市販されている省エネルギー窓材やフィルムには、「遮熱Low-Eガラス」があります。2枚のガラス間に乾燥空気などを封入したガラスであり、この充填ガスの効果により熱の移動量を少なくし、高い断熱性能を発揮することができます。さらに内部のガラス表面に特殊金属膜を施すことで遮熱効果も発揮しますが、冬場も日射の透過を遮るために暖房開始時期を早めるという報告もされています。「遮熱フィルム」も各社から市販されています。表面に特殊膜を施すことで遮熱効果を期待することができますが、断熱効果は余り期待できません。遮熱フィルムの特徴としては紫外線カットや日射の透過・反射の波長選択性を付与し、用途や使用場所に応じて使い分けることが挙げられます。
この調光ミラーは光を反射⇔透明でコントロールすることができ、反射状態では光の透過率が1%以下になるため、窓材応用において室内への太陽エネルギー(熱)の流入をほぼ抑えることができます。そのため、使用者が気候、時間、場合に応じて自由に光の透過量をコントロールすることで効果的な空調負荷、照明負荷削減効果が期待できます。また、既存の窓材、フィルム製造技術との融合が可能です。
特許出願状況
バッファ層を有する全固体型反射調光エレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材、特開2009-25785 、田嶌一樹、山田保誠、吉村和記(出願中)マグネシウム・チタン合金を用いた全固体型反射調光エレクトロクロミック素子及び調光部材、特4399583 、田嶌一樹、山田保誠、吉村和記、包山虎
研究者からのメッセージ
調光ミラーデバイスは、反射(鏡)⇔透明のスイッチングを利用することで、TPOに応じて日射を効果的にコントロールすることができます。用いる薄膜材料は室温プロセスで作製が可能で、既存の複層Low-Eガラスの製造技術等を用い、調光ミラー構造を複層ガラス内に内包させることにより、さらに優れた遮熱効果が期待できます。調光性能も薄膜作製条件によりチューニング可能です。
基材としてフィルムを選択した場合には、柔軟であるため平面に捕らわれず様々な部位への応用が可能であるため、住居・ビル等の入れ替えが困難な部位や高所等へ簡便に適用することができます。
調光性能の向上を行い、材料の省使用化技術および代替材料技術開発により製造コストも大幅に削減することができれば車、バス、電車、航空機など移動用車両への応用もできます。また、電気的に動作するため、光ファイバーの切り替えスイッチ、光学部品といったデバイスや、ゴーグル・サングラスなどへの幅広い応用が考えられます。
社会および企業のニーズなどの意見交換と、具体的応用開発のイメージを持って共同に取り組んで頂ける企業をお待ちします。
参考:
- サステナブルマテリアル研究部門 環境応答機能薄膜研究グループ
- http://unit.aist.go.jp/mrisus/ci/group/ecttg/ecttg.html
- NEDO産業技術研究助成事業支援研究の技術説明会 資料
- http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20071121/pr20071121.html
- 産業技術総合研究所2007年11月21日発表資料
- http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20071121/pr20071121.html