電磁波からのエナジーハーベスティングとセンサネットワークの応用
UHF帯電磁波からのエネルギーを、紙に印刷した小型アンテナを利用して回収し、直流電流に変換しセンサの電源として利用するため、電池交換や、太陽光などが不要で、メンテナンスの容易な、低コストのセンサネットワークの構築が可能となります。
研究機関・所属 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 |
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氏名・職名 | 川原圭博 講師 |
研究テーマ名 | エネルギーハーベストによる低コストセンシングシステムの開発 |
応用想定分野 | 高機能RFID(無線ICタグ)、センサネットワークなど |
技術概要
- (1)
- UHF帯の電波を数μWから数mWの直流電流に変換するレクテナ構成技術
- (2)
- 微少で不安定な電力環境であっても効率よく無線でデータを送受信する無線通信プロトコル
の研究開発に取り組んでいます。
本研究により、実空間の情報を高密度でとらえるセンサネットワークを、閉暗所でも、また、電池交換の必要もなく、しかも低価格で実現することが可能になります。
- 図1 UHF帯の電波を受けて,微少なエネルギーを回収し,センサネットワークを構成
技術の特徴
本研究では、電波による給電技術に着目しています。人間が生活する環境中には、電子機器が発するノイズや放送通信に使われる電波など様々な電磁エネルギーが空中に放射されています。このうち、実際に放送や通信に利用されなかったエネルギーは最終的に熱エネルギーとなって失われています。放送通信用の電波は、最も単純にはアンテナと整流回路さえ備えていれば電波から電気エネルギーを取り出すことができるため、情報通信機器であればほとんどコストアップすることなくエネルギーを回収することができます。例えば東京タワー周辺において、地上デジタルテレビ放送の周波数帯のエネルギーを受信して電力を取り出す実験の結果、平均860μW,最大1.3 mWの電力が実際に得られました。また、電波を空間中に放射するには法規制と絡めた議論が必要になりますが、今後無線給電のための周波数帯が開放されれば、本技術を電気エネルギー供給のための、無線電力伝送の一手段としてとらえることも可能です。
ソフトウェアに関する技術的な特徴としては、センサノードに残されたエネルギーは一方的に減るばかりであり、既存のセンサネットワークの研究の多くでは、この限られたエネルギーを制約条件としてノード自体またはセンサネットワーク全体としての稼働時間を少しでも長くするための技術が検討されてきました。本研究では、蓄積されたエネルギーは減ることも増えることもあるため、残存エネルギーの量だけでなくこれから回収が期待できるエネルギーも考慮に入れながら電力消費を「運用」していくような通信プロトコルを設計しています。
従来技術との比較
本提案で実現を目指す紙ベース無線センサノードは、センサ付きアクティブRFID(無線ICタグ)やセンサネットワークノードと同等の機能を、インクジェット印刷技術を利用することでパッシブRFIDに匹敵する、低価格と使い勝手(外部電波からの給電)を実現する、全く新規な技術です。
センサのエネルギー源としては、乾電池や太陽電池等の自然エネルギーも考えられますが、本研究のエネルギーハーべスティングでは、定期的な電池交換のメンテナンスが不要であり、建物や車両の中などの閉暗所でも継続的に使用できる等の利点があります。
特許出願状況
本研究に関する特許は出願していません。研究者からのメッセージ
本件研究は、例えば東京タワー近辺では実証実験に成功していますが、現状では、都会地を離れると電波強度が急速に弱まる等の問題が残っています。 本技術は将来的には、無線電力伝送の一手段として、また、無線電力伝送を組み合わすことにより、低コストでメンテナンスフリーの広範、高密度のセンサシステムとしての展開も期待されます。さらに、最も実用化が近い用途の一つとして、局所的に電波エネルギーを供給する、高機能RFIDへの応用を期待しています。
参考:
http://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/川原圭博, 塚田恵佑, 浅見徹: "放送通信用電波からのエネルギーハーベストに関する定量調査," 情報処理学会論文誌, Vol.51 No.3 pp.824-834, 2010/03