次世代の電子・磁気薄膜デバイス開発を可能にする蒸着レート精密制御分子線エピタキシー(MBE)成長技術
蒸着レート制御MBE成長技術は、多元系化合物(太陽電池、超伝導、熱電材料など)の高品質薄膜作製に大変有効です。本研究グループでは、2008年に新しく発見された鉄系超伝導体によるデバイス作製の基盤技術開発の一環としてこの技術を確立し、従来の成膜法では得られていないSr1-xKxFe2As2やBa1-xKxFe2As2、SmFeAs(O,F)の超伝導薄膜成長に世界で初めて成功しました。
研究機関・所属 | 東京農工大学 大学院 共生科学技術研究院先端物理工学部門 |
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氏名・職名 | 上田真也 助教 |
研究テーマ名 | 鉄系超伝導体を用いた超伝導接合基盤技術の開発 |
応用想定分野 | 多元化合物薄膜材料開発および関連装置、鉄系高温超伝導デバイスの開発 |
技術概要
薄膜材料を構成する各元素の蒸着量を高精度に制御するために、MBE装置に元素弁別可能な蒸着レートセンサ、フィードバック回路を設けました。この装置を使うことにより、化学組成が精密制御された高品質薄膜の作製や、従来は蒸着法による薄膜作製が不可能だった多元機能材料(太陽電池材料 Cu(InGa)Se2等)の薄膜作製も容易になります。
技術の特徴
一般に、多元化合物薄膜の成長では人為的な組成制御が不可欠ですが、従来のMBE装置は蒸発フラックス比の正確かつ再現性の良い制御が困難でした。組成制御に当たっては、蒸発フラックスの元素識別可能な原子吸光分光や原子発光分光を原理とした蒸発レート制御器が有用であることから、本研究グループではMBE装置に電子衝撃発光分光(EIES)レート制御装置と原子吸光分光(AAS)レート制御装置を搭載し、従来の弱点を克服しました。
従来技術との比較
(*) 本研究はNEDO若手研究グラントによる超伝導接合基盤技術の開発の一環です。そのため現在のところ、本技術による実績は超伝導薄膜材料に関するものが主となっています。特許出願状況
出願ナシ研究者からのメッセージ
MBE法は本来、他の成膜法と比較して長所の多い成膜法です。超高真空中の清浄雰囲気下での成膜が可能なこと、成長プロセスが単純であるため低温成長が可能なこと、大面積化が可能でデバイス作製のコスト低下を実現できること、などが挙げられます。組成制御という唯一最大の弱点が克服されたことにより、今後、次世代の電子・磁気薄膜素子の成膜法の主流となり得ると期待しています。
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