小分子-タンパク質ハイブリッド蛍光プローブを用いた細胞内情報伝達の高感度イメージング法の確立と、創薬研究への応用
細胞内の特定の場所に固定した蛍光小分子を標的分子(タンパク質、金属イオンなど)と選択的に反応又は結合することで蛍光を発生させる、という新たな方法論に基づいたセンサー分子(蛍光プローブ)の開発を行っています。これにより、生細胞中での特定部位で生じる情報伝達の特異的・高感度かつリアルタイムな可視化ができ、従来のアッセイでは評価できない新規の薬理活性を持つ医薬品の創出などを可能にします。
研究機関・所属 | 東京大学 大学院薬学系研究科 薬品代謝化学教室(主任教授 長野哲雄) |
---|---|
氏名・職名 | 寺井琢也 助教 |
研究テーマ名 | 小分子-タンパク質ハイブリッド蛍光プローブを用いた細胞内情報伝達の高感度イメージング法の確立と、創薬研究への応用 |
応用想定分野 | 新薬開発・環境関連分野(汚染物質の検出)、診断分野(疾患関連分子の検出)など |
技術概要
画期的な新薬開発を実現するためには、数多くの候補化合物の作用機序や毒性を迅速・的確に評価するための新たな手法が必要であります。近年、生細胞に対して創薬研究における細胞内情報伝達の高感度イメージングの重要性が高まっていますが、この手法の高いポテンシャルを十分に生かしきれていません。
そこで提案者は、標的となる分子(金属イオン、タンパク質など)と選択的に反応または結合することで蛍光を発するようになる全く新しいタイプのセンサー小分子(=蛍光プローブ)の開発を行っています。薬理試験や毒性試験の期間を短縮し、従来のアッセイでは評価できない新規の薬理活性を持つ医薬品を創出可能にする技術です。
従来開発されてきた蛍光プローブには大きく分けて(1)有機蛍光小分子を用いたもの、(2)蛍光タンパク質を改変したもの、の2種類がありますが、この研究では、これまで独立に研究されてきた蛍光イメージング法を融合させ、有機化学的に理論的に合成した蛍光小分子を細胞内の特定のタンパク質へと結合させるという新たな方法論に基づいたプローブ開発を行っています。これにより、生細胞中での標的分子の挙動を特異的に、かつリアルタイムで可視化でき、詳細に解析できるようになります。効率的・革新的な医薬品開発への貢献が期待されます。
現在は、本技術を用いた最初の例として、創薬において重要なイオンチャネルを標的としたプローブ開発に注力し、細胞表面の極在型K+イオン蛍光プローブを開発し、タンパク質への選択的な標識化に成功しています。順次他のターゲットにも応用していく予定です。
【図の説明】小分子-タンパク質ハイブリッド蛍光プローブの概念と応用
蛍光を発する構造を持つ有機分子を細胞内の特定の小器官に固定することで、その場所における標的分子の挙動を可視化解析することが可能となります。
技術の特徴
- (1)
- 生きている細胞におけるイオン濃度や酵素活性などを、蛍光イメージングにより検出できます。
- (2)
- 有機蛍光プローブのみを用いる場合よりも非特異的なシグナルが少ない。
- (3)
- 抗体を用いたイメージング手法とは異なり、分子の動的挙動をリアルタイムで可視化できます。
- (4)
- 本技術により、細胞内の特定部位で生じる情報伝達の高感度の可視化(刺激依存的な酵素の活性化、Caイオン濃度の変化、抗体の挙動 など)が可能となり、生体での疾患・老化関連物質の検出、環境汚染物質の検出など多くの用途も考えられます。
従来技術との比較
特許出願状況
準備中論文等
論文6報、学会発表19件(国際学会6件)研究者からのメッセージ
蛍光イメージングは、さまざまな細胞の生理機能をリアルタイムで解析可能な唯一の技術といっても過言ではなく、大学や研究機関での基礎研究のみならず、バイオ関係をはじめとする多くの産業においてもニーズがあるものと考えています。タンパク質と蛍光小分子を併用する類似の技術は他の研究者によっても研究が行われていますが、実用的なレベルまで研究が進んでいるものは未だ存在しません。我々のグループは蛍光プローブ開発のノウハウが豊富で、世界的に最先端を行く新規な技術を有しています。
企業との連携においては、蛍光分子を用いたバイオイメージングや創薬研究に関する意見交換、共同開発を望みます。
参考:
- 研究室ホームページ
- http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~tlong/
- 科学研究費テーマ
- http://kaken.nii.ac.jp/en/r/00508145