専門家コラム

【057】 食用油脂の価格高騰と劣化防止策

中谷 明浩

 大手食用油メーカー各社は2021年以降、6度にわたり食用油の値上げを行った。そのため、食用油の未だかつてない高騰がはじまることになる。総務省の小売物価統計調査によると、21年7月時点で296円であった東京都区部の食用油の小売価格(1本・1kg)は、1年後の22年7月でその1.5倍である437円にまで上昇した。なぜこのような状況にあるのか。その背景を探ると共に、食用油とその節約につながる劣化防止技術について述べてみたい。

1. 昨今の食用油を巡る国内外の状況
 食用油の原料となる大豆や菜種などは油糧種子または油糧原料と呼ばれ、そのほとんどが海外からの輸入に頼る。そのため、世界の穀物などの需給や価格の変動が食用油の生産や価格に大きく影響することになる。そこで、食用油を取り巻く環境と今後の状況を考えてみたい。
世界の穀物および大豆の需給と世界人口動向において、世界の穀物および大豆の需要量は,世界の人口の伸び率と共に増加しているが、その供給量に余裕があるわけではなく、微妙な需給バランスを取り続けている1)。
 国際穀物及び大豆価格の推移では、2008年のリーマンショック以降は、穀物の大産地である米国をはじめ、各産地での異常気象やコロナショックからの経済回復などにより高値で推移している2)。そして、世界の食用油価格相場は、世界銀行が公表しているCommodity Price Data(食用油価格データ)(図1)では、穀物相場と同様の動きを示し、特に2020年5月からは2008年のリーマンショック時を超える上昇相場となり、これが食用油高騰へとつながっているのである。


 現に、国内の食用油価格推移をみてみると、世界三大油種であるパーム油、大豆油、および菜種油のうちパーム油は、パーム油輸入価格において2020年5月対比で今年5月期では2.7倍もの上昇をみせた。大豆油卸売価格とナタネ(菜種)油卸売価格でも1.6倍となり、大豆油で6,100円/16.5kg、ナタネ油で6,600円/16.5kgの高値をつけ、現状、高止まりの状況にある3)。
 他方で、農林水産研究所が今年3月に公表した「世界の食料需給の動向と中期的な見通し」では、世界の主要品目の消費量の変化において、植物油は2006-08年の指数を100とした場合、2031年には190と予測され、世界の各品目実質価格の増減率は、基準年2018-20年対比で2031年には6.1%増と、消費量と価格ともに上昇するとの試算がある。
 さらに、新興国の経済成長による食用油需要の増加、産地国食料輸出規制やバイオ燃料という現実がある。直近では、コロナショック、ウクライナ問題、円安、原油高騰、世界的インフなどを踏まえると、食用油価格は今後も上昇基調で不安定な値動きと考えることが自然のように思える。
このような背景において、食用油を衛生的で安全に長く使うという技術は、食品産業にとって益々必要不可欠と考える。

2. 食用油とは
 食用油(脂質)は三大栄養素の一つとして重要な栄養素である。油脂の基本構造は、グリセリン骨格に三つの脂肪酸がエステル結合した化学構造を有し、一般的にトリグリセライドと呼ばれる。一般的な脂肪酸は、炭素が12から22個の直鎖の化学構造を有し、その直鎖内に二重結合を有しない飽和脂肪酸と、有する不飽和脂肪酸に大別される。不飽和脂肪酸において、脂肪酸それぞれの酸化安定性においては、酸素との反応に富む二重結合が少ない脂肪酸が安定とされ、二重結合が多ければ低い。二重結合の多、少の指標としてヨウ素価(IV)があり、脂肪酸組成として飽和脂肪酸の多いパーム系油脂はIV50~72、オレイン酸の多い菜種油でIV94~126、リノール酸の多い大豆油でIV124~136を示す。一方で、一概に二重結合の数だけ(IVだけ)で酸化安定性が決まるわけではなく、油脂に含まれるトコフェロールなどの抗酸化成分や、食用油の精製度合いなどにもよるので留意されたい(図2)。


3. 食用油劣化の仕組み(自動酸化、熱酸化・熱劣化、光酸化)
 自動酸化とは、常温下における酸素によって生じる酸化反応で、食用油が空気に接触していると、食用油に酸素が吸収が進み酸化反応速度はが速くなる。自動酸化のプロセスは、最初の誘導期間を経て、食用油と酸素が反応した過酸化物の生成とその分解となる。食用油を含む食品では、初めは無臭でも長期保存することによって食用油の酸化分解物による好ましくない臭いが生じ、商品価値を低下させる。
 熱酸化(熱劣化)の酸化メカニズムは、基本的に自動酸化と同じであるが、反応速度が格段に速く進むことにある。一般的に、10℃上昇するごとにその反応速度は二倍なるとされ、そのため、加熱による油脂の変化は非常に大きく、調理における加熱温度やその時間、食用油の品質などにも注意を要する。酸化や劣化度合いによっては酸化分解物のアルデヒド類などの影響により体調不良を招いたり、製品品質を著しく低下させる場合がある。
 光酸化においてもそのメカニズムは自動酸化と熱酸化と同じであるが、著しく反応速度が速く、光の中でも紫外部、特に380nmより短波の紫外光が食用油の劣化を急激に促進する。特に大豆油では光による臭気が発現しやすく、明るい場所に陳列されるような製品には注意が必要である

4. 劣化防止技術
(1) 劣化指標と評価
 食用油の劣化指標は、用途によって使い分けがされており、例えばフライ油である場合には、加熱によって生じる着色度合い、食用油の分解や重合によって生じる粘度の上昇率、加水分解によって生じる遊離脂肪酸量の指標となる酸価(AV)が主に用いられる。フライ油以外の用途で菓子のかけ油、保存食用油などは、前述の指標のほか、過酸化脂質を測る過酸化物価(POV)、アルデヒド類などを測定するカルボニル価(COV)などが用いられる。過酸化脂質は不安定で、フライ調理中に分解することからフライ油の劣化指標としては不向きである。同じくフライ現場においては、簡易測定可能な酸価や、食用油の酸化や劣化で生じた全ての生成物を測定する極性化合物量(PC)が用いられている(図3)。


(2) 劣化管理のための基本5項目
 基本5項目として、①劣化指標などの管理基準の設定、②科学的根拠に基づく促進試験を含む保存試験の実施、③ガイドラインや基準の遵守、④官能評価によるおいしさや品質の担保、⑤劣化の抑制、があげられる。これらの基本が押さえられていなければ、調理現場や製品における適切な劣化管理はうまくいかず、衛生的、食の安心安全の観点から離れることになる。これらは、食用油の劣化管理に限らず、他の食品の品質管理にも当てはまる。
(3) 油の劣化と衛生管理
 昨年6月のHACCP義務化に伴い「弁当及びそうざいの衛生規範」が廃止された。同規範で示されていたフライ油廃油ガイドラインについては、現在、(一社)日本惣菜協会作成の「小規模な惣菜工場におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引き書」(厚生労働省ホームページ)に油脂の使用限界(例)として記載されている。その他のガイドライン・規格基準と共に図4に示す。


(4) 劣化防止のための適正使用方法
 揚げ種を分類すると天ぷら類、フライ類、唐揚げ類に分けられる。これらのフライ特性を把握し工夫することが劣化防止に寄与する。例えば、①天ぷら類は吸油量が多く、新油による差し油を多く行うためフライ油の劣化が少ない。②フライ類では、吸油するがパン粉等の揚げカスが多く比較的劣化が進みやすい。一方で、③唐揚げ類は、ほとんど吸油をせず、溶出物多いためフライ油の劣化が早い。これらの特性を踏まえ、参考として全ての揚げ種類を調理する現場では、最初に天ぷら類から調理し、次にフライ類、最後に唐揚げ類の順に揚げることによりフライ油を効率的に使い切ることができる。 また、フライ調理をしていない間の油温を下げる(空加熱を避ける)、揚げカスを除去する作業は、劣化防止の効果が大きい4)。
(5) 加熱安定性の高い油脂の使用
 パーム油やパームオレインなどのパーム系油脂は、飽和脂肪酸であるパルミチン酸と、二重結合の少ないオレイン酸でほぼ構成されていて、酸化安定性が他の大豆油や菜種油などの液油と比較してよいとされる。風味など理由から液油と配合して使用されることが多いが、脂肪酸の酸化特性から酸価が上昇しやすい傾向にあり、劣化管理として酸価と極性化合物量などの指標とを連携させた方法を考えるなど、工夫が必要である。
(6) シリコーンオイルの抗酸化作用と抗酸化剤例
 業務用フライ油には、消泡剤として食品添加物であるシリコーンオイルが1~5ppm添加されている製品がある。あくまでもフライ中の発泡を抑制する目的で添加されているが、同時に抗酸化作用を有し、フライ油の劣化防止に寄与している。また、主に自動酸化による劣化防止としてトコフェロールやローズマリー抽出物、乳化剤などの抗酸化剤があり、実務的には0.05~0.1%程度、食用油に添加されている。
(7) 科学的根拠に基づく管理の重要性
 使い込みによるフライ油の着色と酸価の関係は、スーパー惣菜、とんかつ、ファストフードなどの業態別で違う5)。調理現場でのフライ油の見た目判断などの感覚的なものは、曖昧といわざるを得ず、実際にはまだ使用できる油であるのにも関わらず廃油にしている可能性がある。一方で、本来は廃油にしなければならないのにも関わらず使用している場合は、衛生上、安全性に問題が生じる。そのため、現場で簡易測定可能な酸価や極性化合物などの科学的指標で合理的に判断することが要となる。

5. 食用油脂を取り扱う現場でチェックすべきこと
 食用油の三大劣化要因である光、酸素、熱の関わりが、調理現場・工程でどのように影響しているかをチェックすることがまずは大切である。例えば、いくつかの調理現場では、フライ作業終了後、フライヤーからそのままの温度で保管タンクにフライ油を移送し、高温のまま空気と接触しつつストックされている状態にあった。このような事例では、熱交換機などで冷却してから保管するか、高温で保管する場合はヘッドスペースに窒素を封入し劣化防止を図ることが好ましい。現状の作業を食用油劣化防止の観点から点検をして評価、改善へとつなげていくことが、食用油劣化防止への筋道となる。

2023年2月11日
著 者:中谷 明浩(なかたに あきひろ)
中谷技術士事務所代表。1973年生、北海道出身。
経歴:食用油メーカーで25年、技術・研究開発・知財畑を歩んだのち、食用油とその関連技術支援、特許情報実務支援を国内外で展開する技術士事務所を設立。「食用油の水先案内人」として数々の技術課題を解決に導く。食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」で「調理現場のフライ油適正管理技術」(2019.3.21掲載)、「特許情報を食品やビジネスに活用しよう」(2019.9.21掲載)など多数執筆。著書に「食用油脂の基礎と劣化防止」(幸書房2020年刊行)がある。

参考資料:
1) 「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し-世界食料需給モデルによる2031年の世界食料需給の見通し-」農林水産政策研究所 令和4年3月 p1  
2) 「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し-世界食料需給モデルによる2031年の世界食料需給の見通し-」農林水産政策研究所 令和4年3月 p26    
3) 「月刊油脂8月号(幸書房)・資料DATA」油脂, Vol. 75, No. 8 (2022)
4) 「油脂の劣化防止技術と製品への応用」月刊フードケミカル 28巻, 9号, p25-33, 図6, 図8 (2012)
5) 「油脂の劣化防止技術と製品への応用」月刊フードケミカル 28巻, 9号, p25-33, 図11 (2012)


*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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