専門家コラム

【053】 近年の食中毒発生状況~食中毒発生の抑制

武内 章

 食の安全安心の確保は国民全体の関心事である。同時に食品製造業、飲食店等食品に携わる事業者にとって、必ず達成しなければならない使命でもある。食品に携わる事業者にとっての悪夢の一つに集団食中毒の発生がある。事業に起因する場で集団食中毒を発生させると、被害者に対する責任が発生する同時に、これまで営々と築いてきた消費者からの信用、ブランドイメージを失い、倒産に至る場合もある。

 1.近年の食中毒の発生状況
 毎年、厚労省が食中毒統計資料を開示しており、本稿はその開示資料を基に作成している。なお、食中毒統計資料は事件数および患者数ベースで示されているが、事業者からみて1回でも食中毒を発生させれば、その患者数の多寡に関わらず経営危機に陥るので事件数ベースで議論を進める。
 平成7年以降において、平成10年をピーク(約3000件)として食中毒発生件数は漸減しており、令和3年は1000件を下回っている。なお、令和3年で最も患者数が多かった事件は、給食弁当中のノロウイルスによる事例で2500人強が発症した。 過去3年間の原因物質別、月別事件数を示す。

 令和元年が典型事例であるが、夏場は細菌性食中毒、冬場はウイルス性食中毒が多発し、年を通じて寄生虫性食中毒が発生している。なお、寄生虫性食中毒の大多数は単発事例(1件の事件で1人が発症)である。

 食中毒原因食品としては、魚介類が多い。生食の機会が多いためである。 食中毒の発生場所は飲食店が多い。なお、過去3年間で飲食店での食中毒発生件数は大幅に減少している。データは示さないが、患者数ベースでも同様に減少が見られる。コロナにより飲食店への来客数が減少したことも考えられるが、コロナ対策として、新規に客席のアルコール清拭等が実施されたことも大きいと思われる。コロナ対策の一環として、食品関係者、来客の衛生意識の向上、努力の成果が食中毒発生件数の減少として現れたと解釈したい。

 2.代表的な食中毒原因物質
 食中毒予防の3原則は、食中毒原因物質を「付けない、増やさない、やっつける」である。この面から代表的な中毒原因物質に関して特徴、予防法等を示す。なおカッコ内の比率は令和3年度の占有率である。

2.1.アニサキス(寄生虫 事件数ベース:48.0%、患者数ベース:3.2%)
  食中毒を起こすのはアニサキスの幼虫である。長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生している。寄生している生鮮魚介類を生で食べることで、 アニサキス幼虫が胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)を起こす。通常猛烈な胃痛を引き起こす。胃カメラと鉗子を用いて虫体を除去する。  単発食中毒事例が多い。統計上で急増の背景には、アニサキスの感染を食中毒として届出をするという認識が医療関係者の間で普及したからと考えられており、近年に急増したわけではないといわれている。食中毒予防には新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除くことや目視で確認して、アニサキス幼虫を除去すること、冷凍 (-20℃で24時間以上)や加熱(70℃以上、または60℃なら1分)することが有効である。

2.2.カンピロバクター(細菌 事件数ベース:21.5%、患者数ベース:6.9%)
  家畜や家禽が高率にこの菌を保菌しているため、と畜場、食肉処理場、食肉販売業での処理過程での汚染により、市販生肉(特に鶏肉)から本菌が検出される。潜伏時間は、1~7日で潜伏期間が長いのが特徴である。腹痛、下痢、発熱が主症状で、下痢は1日10回以上に及ぶ場合もある。 食中毒予防のため、食肉は十分に加熱(中心品温5℃以上、1分間以上)を行うこと、十分な食肉やその臓器あるいは食肉等の生食を避けること、熱や乾燥に弱いので、調理器具は使用後に良く洗浄し、熱湯消毒・乾燥することが重要である。

2.3.ノロウイルス(ウイルス 事件数ベース:21.5% 患者数ベース:42.7%)
  ノロウイルスは、冬季を中心に、年間を通して胃腸炎を起こす。ノロウイルスに感染した調理従事者が食品を汚染したことが原因と疑われる事例が多く報告されている。また、原因食品は水やノロウイルスに汚染された食品、特にカキを含む二枚貝が報告されている。ノロウイルスは貝の体内では増殖できない。二枚貝の生息域がノロウイルスに汚染されると、ノロウイルスを体内に蓄積してしまうと考えられている。潜伏時間は24~48時間で、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱が主症状であり、通常3日以内で回復する。  食中毒予防のため、トイレの後、調理をする際、食事の前にはしっかり手を洗うこと、生鮮食品(野菜、果物など)は十分に洗浄すること、カキなどの二枚貝は中心部まで十分に加熱(85℃~90℃で90秒以上)することが重要である。

2.4.病原大腸菌(細菌 事件数ベース:0.7% 患者数ベース:20.4%)
  大腸菌は人や動物の腸管に存在し通常病原性はないが、いくつかの大腸菌株は人に対して病原性があり、これらを総称して下痢原性大腸菌(病原大腸菌)と呼ぶ。代表例に腸管出血性大腸菌O-157がある。腸管出血性大腸菌O-157は、牛などの家畜が保菌している場合があり、これらの糞便に汚染された食肉からの二次汚染により、あらゆる食品が原因となる可能性がある。過去には、牛肉及びその加工品、サラダ、白菜漬け、井戸水等による食中毒事例がある。潜伏期間は平均4~8日で、症状は激しい腹痛で始まり、数時間後に水様下痢を起こすことが多い。1~2日後に血性下痢(下血)がみられる。  食中毒予防のため、生野菜などはよく洗い、食肉は中心部まで十分加熱(75℃以上で1分以上)してから食べること、加熱調理済の食品がニ次汚染を受けないよう、調理器具は十分に必ずよく洗うことが重要である。

3.食中毒発生を抑制するには
 産学官が協調しリスクマネジメントすることで、食中毒発生を抑制できると筆者は考えている。その事例として、サルモネラ食中毒の変遷を上げる。1980年頃に、卵類・加工品を原因食品とするサルモネラ属食中毒が急増し、社会問題となった。疫学調査の結果、Salmonella Enteritidisが主原因で、原種鶏およびこれらから生まれた産卵鶏がS.Enteritidisに汚染され、鶏卵がin egg汚染されていることが判った(学の立場)。これを受けて、1998年に食品衛生法施行規則の一部改正、ガイドラインの策定等の予防対策が講じられ、液卵の成分規格、製造基準、保存基準等が整備された(官の立場)。同時期に、養鶏場産卵鶏のall in all out化、液卵製造工場の衛生管理の改善(現在のHACCP、FSSC22000に近い作業法の導入)が進められた(産の立場)。その結果、1999年をピークとして、サルモネラ属食中毒は減少し現在に至っている。
 
食中毒とは若干異なるが、コロナ対策等の新規疫学問題であっても、産学官が協調してリスクマネジメントすることで改善できると信じている。

2022年8月20日
著 者:武内 章(たけうち あきら)
略歴:東証プライム食品会社にて微生物制御、発酵生産の研究
専門領域:食の安全安心、発酵素材の開発


*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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