使いやすくて高性能な新型ニューラルネット

一時期もてはやされたニューラルネットは、学習に非常に時間がかかる、パラメータ設定が難しいなどで実際に活用されている例はあまりない。この「選択的不感化ニューラルネット(SDNN)」はこれらの欠点をクリアした新しい方式であり、通常のパソコンで実用速度の関数近似やパターン分類が可能になった。
今後広い分野での活用が期待される。一つのデモとして多数の筋電位入力から手の動作を短時間に学習し、次の動作を筋電位からリアルタイムで推定する「じゃんけん対戦システム」を実現した。
所属 筑波大学 システム情報系・知能機能工学域
氏名・職名 森田 昌彦 教授
研究テーマ名 SDNN(選択的不感化ニューラルネット)による関数近似およびパターン分類
応用想定分野 筋電信号を用いたインタフェース、パラメータ最適化、音声認識、スマートグリッド、など

技術紹介

 本方式のニューラルネット、SDNN(選択的不感化ニューラルネット:Selective Desensitization Neural Networks)は、図1のように入力層、中間層、出力層からなる。入力層はアナログ量を多数の2値の入力素子で表現する。中間層は、これらの入力変数組のすべての組み合わせを重ね合わせた3値の素子で構成される。学習は出力層への結合を変えて、対象出力パターンとの比較で最適化することで行われる。(詳細は下記文献を参照)
 従来の多層パーセプトロンなどの、学習時間が非常に長い、パラメーター設定が難しいという課題をクリアし、パソコンでも短時間で実用レベルの処理が可能になった。

技術の特徴

  1. 学習が非常に速い →パソコンでリアルタイム処理可能
  2. 汎化能力が高い→ 小サンプルでも学習可能
  3. 不要な入力の影響を受けにくい→ 変数選択の手間が省ける
  4. パラメータ依存性が低い
  5. 非線形関係・不連続性に対応

従来技術との比較

 本技術の特徴を具体的なシステムで証明するために、腕の筋肉表面電位を複数(6個)の入力変数とし、出力を手の動作(じゃんけん)とするシステムを作成した。構成は筋電アンプの出力をパソコンのSDNN処理系に入れ、出力(グー、チョキ、パー)を画面に表示した。一つの動作の学習は2、3回で済み、手を動かそうとするとSDNNはその動作パターンを手の動き出しとほぼ同時に判定し、ほぼ必ず勝つことができた。

ジャンケンデモ(動画):http://volga.esys.tsukuba.ac.jp/~kawata/demovideo/demovideo.wmv

 下表のように、筋電信号からの従来のセンシング判定方式と比較して、より実用性の高いシステムになっている。従来手法に比べて使用者の負担がはるかに少なく、調整などに要する時間も非常に短いため、さまざまな人支援技術へ応用が可能である。

特許出願状況

特許 第5152780号(特開2009-64216、特願2007-231085、出願日2007年9月6日)
発明者:森田 昌彦
「関数近似装置、強化学習システム、関数近似システムおよび関数近似プログラム」

研究者からのメッセージ

 与えられたデータから入出力関係を推定する関数近似の技術は、多層パーセプトロン(従来型のニューラルネット)の登場以来ほとんど進歩がありませんでした。SDNNは、人間が脳内で行っていると思われる処理により近づけたモデルであり、従来型より高性能である上に、パラメータ依存性が少なく適用範囲も広いので使い勝手がよいと思います。データが数値化できる問題であれば、これまで人間が経験や勘に基づいて直観的に判断してきたことを代替できる可能性があります。特に、個人差が激しいデータをその場で取得し分析して使いたい、といった場面などで有効と考えています。

参考:
筑波大学 システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 生体情報処理研究室
http://volga.esys.tsukuba.ac.jp
発表論文:
  1. 野中和明,田中文英,森田昌彦. 階層型ニューラルネットの2 変数関数近似能力の比較. 電子情報通信学会論文誌(D). 2011, J94-D, 12, p. 2114-2115.
    http://volga.esys.tsukuba.ac.jp/~mor/paper/nonaka2011.pdf
  2. 新保智之,山根 健,田中文英,森田昌彦. 選択的不感化ニューラルネットを用いた強化学習の価値関数近似」、電子情報通信学会論文誌(D). 2010, J93-D, 6, p. 837-847.
    http://volga.esys.tsukuba.ac.jp/~mor/paper/shimbo2010.pdf
  3. 森田昌彦,村田和彦,諸上茂光,末光厚夫. 選択的不感化法を適用した層状ニューラルネットの情報統合能力. 電子情報通信学会論文誌(D-II). 2004, J87-D-II, p. 2242-2252.
    http://volga.esys.tsukuba.ac.jp/~mor/paper/mor2004.pdf
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