大腸内視鏡検査における癌検出を支援する鉄イオンセンサーの技術開発

大腸癌の検診で従来用いられている便の潜血検査と内視鏡検査の組み合わせの途中に、大腸洗浄液の鉄イオン検査を組み合わせることで効率的なスクリーニングが見込まれる。また、カプセル型内視鏡の膨大な写真データ解析を鉄イオン測定と組み合わせることにより、敏速化・省力化を可能にできる。
所属 筑波大学 医学医療系
氏名・職名 金子 剛 講師
研究テーマ名 大腸内視鏡検査における癌検出を支援する鉄イオンセンサー技術
応用想定分野 医療機器および検査システムの分野、消化器内部を観察する内視鏡

技術紹介

 従来の内視鏡またはカプセル型内視鏡に鉄イオンセンサーを組み合わせることで、観察病変部位の出血確認を迅速に行える。

消化管用電子内視鏡の内部管路構成

 便が潜血陽性となった被験者に対する大腸洗浄液からの鉄イオン測定を用いれば、高額かつ被験者の負担が大きな内視鏡検査の前の絞り込みにより、内視鏡検査の患者数を減らすことができる。また、鉄イオン測定との併用によりカプセル型内視鏡では疾病部位の絞り込みができ、診断が容易になる。

検討結果の例

技術の特徴

 鉄イオン検出と内視鏡の組み合わせ

既存技術、競合技術との比較優位点

 従来の便潜血検査(570万人が受診、35万人陽性)から内視鏡検査で大腸癌患者7千人を発見する中間ステップ(1.5次検査)として絞り込みに有効と考える。

従来技術との比較

特許出願状況

 内視鏡に鉄イオンセンサーを組み合わせたものと、大腸洗浄液からの鉄イオン検査による大腸がん診断については別々に2件の特許出願を1月に行った。
 小型鉄イオンセンサーについては、5月目途に出願準備中:

研究者からのメッセージ

 この技術は“逆転の発想”と“隙間の発想”に基づく。
 今回用いる消化管洗浄液は大腸内視鏡の必須の前処置である。大腸癌病変は易出血性であるため、便の通過による刺激だけでなく、消化管洗浄による刺激でもわずかな出血をきたす可能性がある。我々の予備実験では鉄イオンセンサーはこれを鋭敏にキャッチにする技術であることを見出した。消化管洗浄液はすべての大腸内視鏡受検者に対し、同一方法により施行されているため、それ自体が理想的な検査検体となっている。そこで我々はこの液体を“内視鏡検査のための脇役“として扱うのではなく、新技術からの観点から重要な患者情報を与える“宝の水”として扱うこととした。

 また一次検査(便潜血検査)は感度が90%を超える素晴らしい検査である反面、あたかもオオカミ少年のように、病変がないのにもかかわらず二次検査(内視鏡検査)に多くの患者を誘う。一方、二次検査は確定診断をもたらす反面、年間35万人の一次検査陽性者に対し7千人(100人中98人は無駄)にのみ有効で、かつ死亡に至る大きな偶発症のリスクも有している。明らかにそれらの検査間は大きなギャップが存在しており、この間を取り持つ技術が必要である。我々はその技術こそ消化管洗浄液中の鉄イオン濃度測定であると考えている。

 こうした2つの発想から本技術は誕生し、現在は一定の成果が出てきている段階である。既に特許も出願しており、大腸がんの早期発見検査支援システムのひとつとしてイノベーション創出の可能性は高いと考える。

参考:
研究者プロフィール
http://www.md.tsukuba.ac.jp/chs/clinical_sciences/t_kaneko.html
発表論文:
  1. Kaneko T. A new screening method for colon cancer by measuring iron concentration in the gut lavage fluid. Digestive Disease Week 2013, Orlando
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